環境理念
自然的原因まで適用を広げた改正土壌汚染対策法を考える
-二つの自然災害が教える地質(地盤)が持つ自然資産と社会負債の適確な識別と評価-
土壌汚染や地下水汚染は地下にある社会負債、地下水や地中熱は地下にある大切な自然資産です。改正土壌汚染対策法は、わが国の地盤(地質)が有する負債と資産を画一的な指定基準で混同させ、美しい国土の価値や国民のささやかな財産を貶める危うさがあります。
日本国土の成因や地質を勉強せず自然現象まで適用を広げた改正土壌汚染対策法では、新燃岳噴火にともなう火山灰や東日本大震災にともなう津波堆積物に直面して、被災地が望む迅速な復旧・復興と国民の資産保全に果たして資するのでしょうか。
 
新燃岳火山灰の仮置場と土壌断面
津波堆積物の採取(陸前高田)
東日本 大震災で液状化し広く被災した人為埋立地盤と、改正土壌汚染対策法で自然的原因汚染と扱われる自然地盤(地層)と、何れが安全で安心か不動産評価が高いかは自明の理です。

液状化して抜け上がったエレベータホール(左)とマンホール列(右)
※傾斜した戸建住居や集合住宅は多数
足元に潜む再生可能エネルギー(地中熱)の利用
 
玉村町内既存井戸の水温等調査
水道が普及する前に利用していた井戸水は、夏冷たくて冬温かいことを体感で覚えています。空調式エアコンでは電力によって、真夏日は35℃超の外気温から温度差を下げなければなりませんし、真冬日は0℃前後の外気温から温度差を上げなければなりません。したがって一年間を通して温度がほぼ一定している「地中熱」は、冷房の場合は熱源温度が低いため有利であり、暖房の場合は熱源温度が高いため有利なことが分かります。

NPO法人地中熱利用促進協会
このように、昼夜を問わず地下浅部に潜む「地中熱」は再生可能エネルギーとして、炭酸ガス(CO2)削減・地中温暖化防止の要素として研究開発や利活用が注目されています。群馬県は、①地下水が豊富で地盤の熱伝導率は高い、②夏は非常に暑く冬は寒い、③延床面積(容積)に対して敷地面積は広いなど、地中熱利用を図る条件の適地と言われています。
良質な地下水こそ生活用水源に!
赤城山麓の湧水
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滝沢の湧玉(赤城村滝沢) |
湧玉(北橘村下箱田) ※地元の人は「木曽三社湧水」と呼んでます |
地下水は昔から貴重な水源として私たちの生活を支えてきました。 ところが今,「地下水は汚染されている」とか「地下水が枯渇している」とか「地下水を汲むと地盤沈下する」とか声高に叫んで,地下水利用を止めて水源をダムに求めさせる行政の動きが強まっています。 技術者としてダムが果たしてきた役割を十分認めつつも,私は地質環境コンサルタントとして「ダム建設を正当化する余り,地下水を悪者にしないで欲しい」と切に思います。地盤沈下や地下水汚染など首都圏の過度な現象をもって前橋・高崎地区の地下水をダメ扱いするのではなく,汚染をもたらす人為的な要因を排除することこそが環境行政の基本であり,地盤沈下をもたらさない収支バランスで地下水を利用することこそが人間の英知であると考えます。 数少ない循環資源の一つである地下水を保全利用することは,高度な循環型社会を目指す21世紀を生きる私たちの使命です。
汚染の広域拡散につながらないのか?-汚染土壌はオンサイト改良が原則
土壌汚染対策法施行後に、関東圏をおもに大都市圏でおこなわれた措置対策事例を集計すると、処分場処理とセメント原料化を合わせて掘削除去が全体の70%近くを占めています。これは、環境行政と土地取引関係者など官民共に、汚染土壌が目の前から無くなれば良いとの指導や意識の現れと考えられます。
しかしながら汚染した土壌・地層を移動する掘削除去は、作為と無作為とにかかわらず汚染の拡散をもたらす機会を増やしていることになります。土地価格や対策工事費用が相当に厳しい現況での安易な移動は、産業廃棄物が全国各地で不法投棄され汚染が拡散した産廃行政の二の舞となる懸念が大いにあります。
欠かせない地質環境学の視点-土壌汚染対策法の適用と運用に当たり
3月7日、島根大学と地質調査業協会島根支部との共同による産学官交流セミナーにおいて、「地質汚染と調査浄化ビジネスに潜む技術リスク-地質環境学の役割」について講演。島根大学地球資源環境学科の教官・学生、地質調査業・コンサル技術者、官公庁技術者など50名ほどの参加があり、講演後に調査対策の方法や技術について熱心な討議をおこないました。
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